COLUMN
コラム
わんちゃんの口臭
2022.07.13
皆様こんにちは,麻布大学獣医学部 薬理学研究室の福山です。
コロナ禍でマスク着用が普通になってきた昨今、以前ほど口臭を気にする必要がなくなったかもしれません。
でも、口臭には病気のサインが隠されていて、放置すると取り返しがつかない、という事もありえます。
今回から数回にわたってワンちゃんの口臭をテーマにお話をさせていただきます。
皆さんは同居されているワンちゃんの口臭についてどのようにお考えでしょうか?
我々の研究室で実施している疫学研究では、500名以上の飼い主さんの約70%が同居ワンちゃんの口臭に悩まれています。
口臭には色々な種類があり、食べ物に由来する匂い、内臓疾患に由来する匂いがあります。
しかし、その大部分は口腔内の病気に関連するもので、犬では歯周病が口臭の発生に深く関連する事が分かっています。
歯周病は人類史上最も罹患者数の多い細菌感染症で、人間の20~30歳代の約30%、60歳以上の約60%が罹患していると報告されています。
犬では罹患率がさらに高く、直近の疫学的調査では2歳齢以上の約80%が歯周病もしくは歯周病予備群といわれています。
歯周病は歯周ポケットに歯周病菌が定着・増殖することで歯垢(バイオフィルム)を形成し、歯周病菌や歯周病菌から産生される毒素によって歯肉の炎症や歯の融解が引き起こされる疾患です。
歯周病菌からは硫化水素やメチルメルカプタンといったガス成分が高濃度に産生され、こうしたガス成分の匂いが「口臭」となります。
特にメチルメルカプタンの匂いは非常に強く、魚の腐ったような匂いが特徴です。
我々の疫学調査では、歯周病の悪化に相関して口腔内のメチルメルカプタン濃度も増加しており、歯周病と口臭が深く関連している事が分かっています。歯周病および口臭は大型犬から小型犬になるにつれて増悪する事もわかっており、ダックスフント、ヨークシャーテリア、トイプードルの歯周病罹患率は他犬種と比較しても非常に高くなっており、それに伴って口臭も強くなる傾向があります。
皆さんご存じの通り、日本は超小型犬社会です。多くの小型犬が屋内で飼い主さんと近距離で生活しているという事からも、お互いにとって口臭をいかに予防するかは大事なテーマになります。
今回はワンちゃんの口臭の原因としての歯周病についてお話しさせていただきました。次回は歯周病の原因となる歯周病菌についてもう少し掘り下げてみたいと思います。
コラムの執筆者
所属研究室:麻布大学 獣医学部 獣医学科 薬理学研究室
福山 朋季先生
東京農工大学農学部獣医学科を2004年に卒業後,一般企業および米国獣医系大学(ノースカロラ イナ州立大学)で医薬品,化粧品,農薬,一般化学物質および動物用医薬品の安全性や薬効確認の 研究に従事し,2018年10月に麻布大学に赴任させていただきました。
現職では,①環境中物質が免疫機能に及ぼす影響評価,②ヒトや伴侶動物(ワンちゃんやネコちゃん )のアレルギー病態解明および対策商品の開発,③ワンちゃんやネコちゃんの歯周病機序解明および 新しいケア商品の開発,を関連する企業様と協力して実施させていただいております。